養育費の強制執行とは?差し押さえの要件、流れと申し立てるデメリット

養育費の強制執行とは?差し押さえの要件、流れと申し立てるデメリット

離婚した非監護親から養育費の支払いが滞った場合、強制執行を検討することになります。ただし、強制執行によって未払いの養育費を確保するには、離婚協議書を強制執行認諾文言付きの公正証書で作成しておく必要があり、離婚時に作成した単なる契約書や覚書だけで、強制執行を進めることはできません。
この記事では支払われない養育費を強制執行で回収するための要件、手続の流れから実行するメリット・デメリットまで詳しく解説します。

養育費の強制執行とは?

養育費の強制執行とは、養育費を支払うべき親が支払いを怠った場合に、養育費をもらう側が裁判所に申し立てて、支払いをしていない親の財産を強制的に差し押さえることです。

養育費は通常、離婚や別居などの場合に子供の生活費や教育費として支払われるものです。たとえば、受け取った養育費は食費、雑費、学校に納める費用などで使用されることとなり、監護者が子どもを育てていく上で非常に重要な資金となります。

それにもかかわらず、何らかの事情で養育費の支払いが滞ったり、悪質なケースでは故意に養育費を支払わないケースも散見されます。

そのような事態に陥った場合、監護者が非監護者に対して、まずは催促をして任意での支払いを促すことが一般的ですが、支払ってもらえないケースが少なくありません。そのような場合には、裁判所に申し立てて非監護者の財産を差し押さえる手続きである養育費の強制執行を検討することになります。

養育費の強制執行が認められる要件

強制執行手続きを申し立てるためには「執行文の付与された債務名義」の正本が必要となります(民事執行法第25条)。代表的なものは判決書ですが、他にも以下のような債務名義があります。

  • 仮執行宣言付判決
  • 抗告によらなければ不服申し立てができない裁判
  • 仮執行宣言付損害賠償命令
  • 仮執行宣言付届出債権支払命令
  • 仮執行宣言付支払督促
  • 訴訟費用等の金額を定める裁判所書記官の処分
  • 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
  • 確定した執行決定のある仲裁判断
  • 確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書・審判書など)

注意が必要なのは、たとえば、離婚時に交わした「養育費支払いの契約書」や「覚書」に基づいてただちに強制執行することはできません。
まずはそれに基づいて訴訟などを提起して判決を取得するなどの手続きを取ることが必要なのです。

覚書レベルの書面しか手元にない方は、弁護士にご相談ください。

養育費の強制執行には「強制執行認諾文言」付き公正証書が必要に

ただし、離婚した際に公正証書を作成してており、その公正証書に「強制執行認諾文言」が付されているのであれば、債務名義としてして使用できるので養育費の強制執行が可能です。

「強制執行認諾文言」とは、「直ちに強制執行に服す」る旨の陳述のことです。たとえば以下の文言がこれにあたります。

甲は、本書に基づく債務が不履行となった場合には、直ちに強制執行に服することを承諾する

注意が必要なのは、「強制執行認諾文言」がなければ債務名義とはならない、すなわち養育費の強制執行ができないことです。

もし今から離婚を考えようとしている方がいらっしゃれば、養育費の強制執行を容易にするために、「強制執行認諾文言」を入れた公正証書を作成することをおすすめします。

養育費の強制執行のメリット

相手に差押可能な財産がある場合に限られますが、養育費の支払いがない場合に強制執行をするメリットは、相手の財産を〈強制的に〉換価できる点にあります。

特に、相手方の職場が分かっている場合には給料を差し押さえることが可能です。
金額は、給与(手取り額)の2分の1まで差押えることができます。

さらに、未払いの養育費だけでなく、将来支払ってもらう養育費についても差し押さえることができます。

たとえば、毎月の養育費が4万円で8ヶ月分の支払いが滞っていた場合を考えると、未払い養育費は32万円ですが、これだけでなく、将来受け取る予定の月額4万円についても相手の給料を差し押さえることができるのです。

養育費の強制執行で差し押さえできる財産

養育費の強制執行で差し押さえできる財産は、おもに「債権」「不動産」「動産」3種類で、代表的な財産は以下のとおりです。

債権

給与

給与やボーナスの金額の2分の1まで差し押さえが可能。将来支払われる分についても継続的に差し押さえが可能。

預貯金

差し押さえできる範囲に制限なし。

生命保険

解約返戻金相当額を差し押さえることができる(強制的に生命保険は解約となる)

不動産

土地、建物

競売にかけて換価。ただし、住宅ローンが残っており強制執行の対象となる不動産に抵当権がついている場合に、競売をしてローンの支払いをした結果、金銭が残らない場合は強制執行できない。

動産

現金

66万円を超える現金に限る。

自動車

売却して換価。ただし、ローン支払い中で所有権留保特約付きの自動車の場合は強制執行できず。

骨董品や宝石類など

売却して換価。

養育費の強制執行の流れ

養育費の強制執行の流れとしては、

  1. 事前の調査
  2. 裁判所へ強制執行を申し立てる
  3. 養育費の回収

という3段階を経ることになります。以下、順に解説します。

事前の調査

事前に調査が必要な事項は、

  • 財産
  • 相手の勤務先
  • 相手の住所

です。

財産については、上述した〈債権・不動産・動産〉のどれに強制執行して換価するのか、あたりをつけておきましょう。
財産調査については裁判所に申し立て相手に財産を開示させる財産開示手続き(民事執行法第196条)という手続きがあるので、弁護士に相談してみましょう。

相手の給料を差し押さえる場合には相手の勤務先の情報が必要となるので、その点を調査しましょう。

強制執行の申し立てに相手の住所が必要な理由

相手の住所を把握することが必要な理由は、強制執行を申し立てる裁判所の場所が、原則として相手の住所を管轄する裁判所となるからです。
離婚後、相当期間が経過していて相手の住所が分からない場合は住民票の調査を行うなどして、相手の住所を割り出す必要があります。一般的には戸籍の附票を取り寄せるなどして調査を行いますが、たどっていくことが難しいケースが多々あるため、弁護士等の専門家に調査を依頼することをおすすめします。

今から離婚を考えている方のアドバイスとしては、離婚する際に公正証書を作り、そこに以下の文言を盛り込んでおきましょう。

「甲と乙は、住所、勤務先を変更した場合は、互いに相手方に通知するものとする」

この約束を守らない配偶者もいるかもしれませんが、公正証書という厳格な書面に記載しているので、相手方に対する相当のプレッシャーとなるでしょう。

裁判所へ強制執行を申し立てる

裁判所へ申し立てる際に必要となる書類は、おおむね以下のとおりです。

  • 申立書
  • 債務名義正本の送達証明書
  • 執行文
  • 債務名義の正本(謄本)の送達証明書
  • 住民票
  • 戸籍謄本

書類に不備がなければ、裁判所が差押命令を出します。差押命令の送達先は、差し押さえ対象とした財産によって異なりますが、相手方・相手方の働いている会社・預金している銀行などです。

養育費の回収

回収の方法は差し押さえ対象財産によって異なります。

預貯金や給料を差し押さえた場合は換価する必要がありません。
給料の差し押さえについては、最大で給与の1/2までを差し押さえることができます。

不動産や自動車など換価が必要なものは売却して換価していくことになります。

養育費を強制執行で回収するデメリット

必要書類を整え、差し押さえられる財産があれば強制執行は可能ですが、強制執行を行うと以下のようなデメリットもあります。

相手方の反発を生む

相手方からすれば強制的に自己の財産を差し押さえられるわけですから、当然に不満を抱きます。
1回の強制執行で満足のいく回収できれば問題ないのですが、強制執行が成功したのが一部だけであった場合、相手方が、今後は強制執行されないように財産隠しをしたり、転職する策を講じてくる可能性があります。

子どもとの関係の悪化

ご自身が養育している子どもと相手方との関係が悪化する可能性があります。
たとえば、相手方に対して強制執行をすることで、相手方があなただけでなく子どもに対しても悪感情を抱き、最悪のケースでは子どもに危害を加えることなどが想定されます。

弁護士費用がかかる

養育費を強制執行するには、裁判所への申し立てが必要なため、ご自身が手続きを進めることは非常に難しく、一般的には弁護士に依頼して進めることになります。その際、弁護士費用がかかってきます。

まずは粘り強い交渉、家庭裁判所の履行勧告を使う手も

以上のようなデメリットがあるため、まずは、粘り強く相手方と交渉して養育費を支払うよう働きかけることが得策です。

また、家庭裁判所に「履行勧告」を申し立てることもできます。これは、家庭裁判所の調査官が相手方を呼び出した上で、養育費を支払わない理由を聴取し、支払いを促してくれる手続きです。強制執行をする前にこの手続きをとることで任意の支払いが実現することもあります。

それでも功を奏さない場合には養育費の強制執行をご検討ください。

養育費の滞納で強制執行を受けた場合

以上のように、養育費を支払わないでいると強制執行を受ける可能性があります。そうなると下記のような事態が発生します。

預金や財産は差し押さえ。養育費の滞納は職場にバレる

上述したとおり、養育費の強制執行を裁判所に申し立てられた場合、ご自身の預金や財産を差し押さえられる可能性があります。以下のように差押が禁止されている財産もありますが、これは必要最低限の生活を維持するためなどの理由で設けられているにすぎません。一般的な生活をしているのであれば預金や財産が差し押さえられる可能性が高いとお考えください。

差押禁止財産 ※民事執行法 第131条第152条をもとに編集部作成
差押禁止動産 生活に必要な衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
一月間の生活に必要な食料・燃料
現金66万円(標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭)
業務・職業に必要な道具・器具
学校・教育機関での学習に必要な書類・道具・器具など
実印その他の印で職業または生活に欠くことができないもの
仏像、位牌などの礼拝・祭祀に必要な物
系譜・日記・商業帳簿など
債務者または親族が受けた勲章など名誉を表彰する物
未公表の発明・著作物
義手・義足など身体の補助器具
法令上必要とされる防災用の機械・器具、避難器具、その他の備品
差押禁止債権 公的年金の受給権
給与債権の4分の3(差押目的が養育費・婚姻費用等の場合は2分の1)
退職金債権の4分の3(差押目的が養育費・婚姻費用等の場合は2分の1)

裁判所から差押命令が出された場合、預金を引き出すことはできず、一般的に財産は売却して換価されます。

また、元配偶者が給与の差押えを選択した場合、裁判所からの差押命令は職場に届きます。そうすると、給与が差し押さえられるだけでなく、養育費を支払っていないことが職場に発覚するため、職場の方から冷たい目で見られることは必至でしょう。

養育費の強制執行を回避するには?

ご自身の生活が苦しくて養育費を支払えない場合は、支払いを滞らせるのではなく、家庭裁判所に対して「養育費減額調停」を申し立てましょう。

「養育費減額調停」を申し立てれば、裁判所が以下の事情を考慮して養育費を減額するかどうか、またその金額について検討してくれます。

  • 親権者(養育費を請求する側)の収入が増えた
  • 親権者が再婚した
  • 自身が再婚して扶養家族が増えた
  • リストラなどのやむを得ない事情で収入が減った…etc

転職や破産をしても養育費の支払い義務は消えない

養育費の強制執行を回避するには上記のような合法的手段をとるべきであり、執行を免れるためだけに「転職する」「破産する」などの方法をとらないようにしましょう。

転職したとしても支払い義務は消滅しません。また、容易に転職先を調査することができるようになっているので、転職は無駄骨になる可能性が高いからです(令和2年4月の民事執行法改正により、市町村や年金事務所に対し相手方の職場を調査することができる制度が施行されています)

また、破産したとしても養育費の支払義務は消滅しません。
なぜなら、養育費は、破産しても免れることのできない「非免責債権」だからです。

上記のような策を弄するのではなく、家庭裁判所に対して「養育費減額調停」を申し立てるようにしましょう。

まとめ

今回は、養育費の強制執行について、メリット・デメリット・流れなどを解説しました。

実際に強制執行した場合、両者の間に感情的な対立が生じることは必須なので、まずは任意の話し合いを継続することをおすすめしますが、どうしても話がまとまらない場合は、強制執行を選択せざるを得ません。

養育費の強制執行をお考えの場合には、対象財産の選択など、慎重に手続きを進める必要があるので、弁護士にご相談ください。

この記事の監修者
林 孝匡林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】をモットーに、法律知識をおもしろく届ける情報発信専門の弁護士。

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